
老人は仕事が終わってすぐにテスを獣医のもとへ連れて行った。
テスが元気なく、食欲も落ちたこと、ジャンプできないこと、
頭を上げないで上目遣いに見ること、下を向くのも辛そうなこと、
うろうろ歩き回るだけで痛い場所を特定できないこと、
以前に腰を痛めたことなど老人の気の付く限りの症状を言ったら、
頼りのサマーズ先生はテスの背中を触診しながら、
とにかく写真を撮りましょうとテスを連れてレントゲン室へ消えた。
暫らくして写真を持ってきた先生は、
触診で頸を触ると痛がること、
レントゲンで頸の付け根の椎間板が後ろに開いていることから
頚椎が脱臼しかかっているのが原因であろうと診断を下した。
老人の診たところ第7頚椎と大胸椎の間が楔のような形に後ろが広がっていた
この診断は概ね老人が推測したとおりだったが、
先生に感心したのは触診で既に頸の異常を感じていたことだった。
「普通は背骨が悪いとそこを触られると痛がるものですが、
この子は腰を触っても痛がらないけれど頸を触ると痛がった。」
その触診とレントゲン写真の所見は一致するというわけである。
まさに御明察だった。
老人も腰にしては以前と痛がり方が違うし、頸の上げ下げを痛がる様子から頸の付近に何かあるかもくらいは想像していたが、
先生は非常にクリアに診断を下した。
注射を一本して薬を貰い、今後の注意事項などを聞いて帰ってきた。
医者とはつくづくありがたいものだと、
昔医学を少しかじったことのある老人は我が事のように誇らしかった。
翌日、テスは見違えたように元気になり、老人の心尽くしの食事も見事に完食した。
名探偵ポアロなら事件を解決したここで葉巻をくゆらすところだが、
煙草を吸わない老人は、紅茶をゆっくり爽やかな気分で味わった。
今朝のマルコポーロはとりわけ香りも味も格別だった。
ガラス戸越しに季節外れのハマナスが一輪咲いているのが見えた。